non titel
最近のエドガーは忙しそうだ。
勿論、前の戦いの後、続く皇魔族との戦いに向け聖龍族も慌ただしく、王たるサイガも多忙を極めている。
しかし、同じ“忙しい”でも前までは何かと理由を付けてはこちらに顔を見せに来ていた。
同盟の為に訪れた直後など、物珍しかったのか頻繁に会いに来るのでちゃんと職務をこなしているのか心配になった程だ。
ところが、最近では全くと言って良い程見掛けないのだ。
それも、公用とは言えこちらが獣牙の地に赴いている時に顔を見せないとは。
「おかしい…」
獣牙の地に赴いている聖龍族の王に、とあてがわれた室にてサイガは仕事半分の状態で頭は雑念に囚われていた。
『別に、獣牙王殿に会わずとも問題の無い用件だ』
忙しくてこちらに周れない、等と言うあからさまに嘘―国内に居て予め伝えてある公式訪問に会えないという状況でもない筈だ―の伝言に対してそう答えてしまったものの、急な態度の変化が気になってしょうがない。
正直、面白くない。
今、立って居る地が獣牙の領地内である事が尚更サイガの気を散らせる。
それでも慣れた卓上での仕事―と言っても大した量も無い認証等を書くだけだ―はあらかた終わり、心此処に在らずだった割には間違いも見当たらない。
「絶影」
音も無くサイガの横に膝を折る様に現れた絶影は忍頭として変らずサイガの護衛に当たっている。
「終わったのでセツナ殿に会いに行く、ご自分の書室に居られると思うか?」
まだ日が落ち始めて間もない、この時間では仕事部屋に居るとも限らない。
少々考えた様な間の後、絶影が頷く。それを確認したサイガは、立ち上がると襟を引き裾直しをして簡単に見繕うと室を後にした。
石で出来た回廊を進み、おそらくこの国で一番馴染みのある部屋へと向かう。
獣牙の地の建築物はどれも外から部屋の中が見える、賓客用の部屋や寝所の出入り口や窓はまるで"のれん"の様にして布よって遮られているものの他は風通しが良いを過ぎて吹き抜けだ。
屋根の軒が長い為、雨が降っても問題は無いのだろうが、サイガにとっては慣れない事の一つだ。
建物の端の方にある部屋、戸口が布によって僅かに覆われた所―セツナの書室として使われている部屋の前までくると足を止めた。
「セツナ殿、居られるか?」
中で人の動く感じがした。
気のせいで無ければ、二人だ。
「これはこれは、サイガ殿」
声で分かっていただろうに、それでも平常落ち着いた雰囲気を持つセツナは僅かに驚きの色をみせる。
「わざわざこちらまで来て頂きありがとうございます」
いつに無く仰々しい物言いをするセツナを不思議に思い視線を合わせる。
獣牙の地に来る時は彼の所に寄る事は大体必要になるのだから、彼は今更な事をわざわざ言ったのだ―サイガはそれを不思議に感じた。
サイガの思うところをくんだか、セツナは視線で奥を指す動きをとった。
「獣牙院殿…」
僅かに目を見開く、有り得なくは無いが、まさかと言う人が居るのだ。
書室の中の来客用にスペースの空いた所には、この様な場所が似つかわしくない、鍛えられた巨躯に靡く白銀の髪をそのままにして座る者が見えた。
ただ座っているだけでもその悠然とした姿に圧倒される、野生の虎の様な姿は見間違う筈も無く先代の獣牙王の姿だ。
「久いな、若き聖龍王殿…、バルバトスでよい」
こちらに、とでも言う様に体を少し横にずらしスペースを空ける。
戸惑うサイガをセツナは室に入る様に促した。
「鎧羅王の長兄が中央に拝謁に伺った時以来になるか」
サイガとバルバトスが並ぶと倍はあるであろう体格の差が歴然となって見える、しかし背筋を正し無理なく凛と、毅然としてあるサイガはそんな差は感じさせない。
それを嬉しそうに目を細めながら眺める。
「バルバトス殿?」
透き通る紅い瞳がバルバトスを見上げた、肩に掛かるサラサラと流れる蒼髪は、聖龍族の中でも王族にしかない。
「あの馬鹿息子とは、どうだ?サイガ殿に迷惑は掛けていまいか?」
急に振られた話題は、最近動向のおかしい件の…
「…迷惑など」
「あれは本当に頭が悪いからな、要領も良くはない、本当に俺の息子かと不思議だ」
「そんな、そんな事はございませんよ」
きっぱりとしたサイガの言葉に意外そうにバルバトスが目を向ける。
「戦の時、彼は戦場の先頭で素早く指揮をとり、それが全体に行き渡りあれ程スムーズに動いてみせる… あれは、彼がどれだけ獣牙の皆に信頼されている戦士か見せられている様でした」
老議会の意見が強く、年若い王と侮られている自分ではとても出来ない戦い方だ。
「あれは天性のモノでしょう…戦も、人を引き付け従わせるものも、天性の王の気質です」
言い終わるや否や、感嘆に近い声を出したのは傍らに居た先代獣牙王だ。
自分の息子に対するサイガの評価を意外といった感じに受けているのがわかる。
「あなたに良く似ておいでです、バルバトス殿」
バルバトスのサイガより頭3つ分は上にあるだろう顔を見上げた。
目の色は、エドガーと似た意志の強さが伺える様な激しい雰囲気を湛えている。どんなに落ち着いて見えようとも、彼らの目は先を見続ける強さの籠る目だ。
「そう言われると、俺が照れるな…口説かれているようだ」
「は?…ッん!」
よく分からない言葉に疑問を投げ掛けようとしたサイガの言葉は、突然の噛付く様な口付けに消えた。
急な事に驚いていたサイガの軽く開いていた唇の隙間からバルバトス舌が入り込むと、咄嗟に奥に逃げ様とする舌を絡めとりキツく吸う様に引張り舐めとる。
「んッ…はッ…ぅう」
息苦しそうにしながら、逃げる様に身を捩るサイガの腰と頭に手を回すと、抱え込む様に押さえる。
その間も舌は口内を犯すように動く、裏側から口内を舐められる感覚にサイガはびくびくと体を震わせた。
しばらくして呼吸の上手く取れない苦しさと、口内をいじくられる感覚から頬を上気させて苦しそうに眉間に皺を寄せるサイガの様子から、仕方無しに唇を開放すると途端サイガは空気を入れようとうわずった呼吸を肩で繰り返す。
「はッ…はぁ、は」
「うちの息子と恋い中と噂を聞いてな…先程はそういった意味で聞いたのだが」
あの様な言葉が返ってくるとは思わなかったぞ。耳元でエドガーよりも幾分か低い掠れた声が囁く、サイガはカッとしたように顔を耳まで赤く染めると、何かを言おうとぱくぱくと口を動かしたが声にならない。
軽く尖った耳を舐め、いつの間にか寛げられていた首筋に舌が這う、その感触にぴくりと体を跳ねさせると、バルバトスの行動を止める様に重なっている胸を腕で押し返す。
「バル、バトスどのッ」
「サイガ殿、俺と息子は好みも似ている様でな」
「なッ…んッ!」
元々の体格差もかなりある上、痺れてまともに力の入らないサイガでは押さえられる筈もなく再び唇が重なった。
「ふぅ…んッ…」
角度を変えながら深く深く行われる口付けに、力がはいらず次第に鼻に抜ける様に高い声が上がる。
その声を聞きながら、バルバトスは嬉しそうに喉を鳴らす様な動作をすると、サイガの帯に手をかけた。
「親父ーーーーー!!!!!!」
ドカドカと床を壊さんばかりの勢いで声を上げて駆け込んでくる。
聞き慣れた声は、噂でなく本当に恋い中になってしまったサイガの想い人だ。
回りの壁を壊さんばかりの勢いで、入口に掛かる簾も引き契りエドガーはセツナの書室へと駆け込んだ。
「何やってやがる、糞親父…」
「ずいぶん遅かったな、セツナが出ていってから結構経って居る」
サイガはいまだ整わぬ呼吸を行いながら、そういえば途中からセツナの気配が消えていたのに気付く。
「しかし今代の聖龍王殿は美しいな、エドガー」
怒りの余り周りが揺らぐ程の気迫で迫るエドガーに、先王にして父は悠々と繰り出した。
「俺のモノに、手をだすんじゃねぇ!」
「誰がお前のモノだ!!」
唸るようなエドガーのその言葉にいち早く反応したのはサイガだ。
「今回はこちらが出向いていたにも関わらず姿も見せず!しかも急に現れて俺のモノとはッ」
押さえる事もできず数日間の不満を口に攻め立てるようにエドガーを睨む。
乱されていた襟を戻し居直したサイガは無言でエドガーを非難している。
こうして来てくれた事は嬉しくとも、咄嗟にでてしまった不満は戻せるものではない、ましてサイガは聖龍族の王―軽んじられたとしたら黙っている事はできない。
「その、悪かった、それは…」
「サイガ殿」
先程までの怒りは何処か、もっともな言い分で怒りだしたサイガにエドガーが何か言おうと口を開く、が、そこを横からバルバトスが割って入った。
エドガーとしては、勿論面白くない、来た時の様子からして父がサイガに何かをしていたのはあからさまだ。
「馬鹿息子は器量が小さけてな、大方貴殿を俺に見せたくはなかったのだろう」
至って普通そうに語られた内容はサイガには不思議なものだ。
しかし、その発言にエドガーは顔を白黒させて―否、困ったような怒った様な顔をしている、これは図星と言う表情だ。
「お、親父ッ!なな、なにをッ!」
「エドガー?」
あからさまな動揺を隠せないエドガーに不思議そうにサイガが視線を寄せると、エドガーは決まりの悪そうな顔をしてみせる。
あまり、見た事のない子供っぽい表情だった。
「な、なんでもねぇ!その件は悪かった…その、許せ」
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無理矢理きった
超小噺、お父さんかっこういいよね。
男前なお父様だと思います。飛天院さまも格好良いと思います。
お父様方は皆好きです。
公私混同しているエドガーでした