keep good time


 頭を鈍器で殴られる様な感覚。

 そんな事と例えとして出されても、実際にもっと酷い外傷を負う事が数え切れない程多い身としては、しっくり来ない。衝撃を受けると言う例えと理解しても、感覚が理解していないからだ。
 元より"普通の人間"より感情は乏しく、そうして作られたのだろうから理解自体が難しいのだろう。と、思考は自分に答えを返す。

 いつだか――こちらに来たばかりの頃、随分と前になるだろう――ルルススやエクレメスが、そう言った感情を大切なモノだと言っていた。
 年月が過ぎれば自然と現われてくる。人格を持って生きている限りそれに例外はない、と話してくれたのが確かに記憶に残っている。

 今になって、こんな形で知る事になるとはあの時は思いもしなかった。





 此処に来て結構な年月を送っていた。
 元々こちらに生まれ落ちる事ができず、他の二人―リヒトとオロロージョと違い、ゲートと中心の塔を守る様に存在している聖域の外に生まれ落ちてしまったらしい俺は、外の世界で自分と確実に違う――外見上の事ではなく、それは体の造りから違うと感じられる様な感覚のもたらすものだった――者に関わり生きて来た。
 長い間そうして生きていた筈だが、あまり記憶には残っていない。
 反対に、自分を探しに来たというリヒトとオロロージョに連れられて、こちら―ルルススとエクレメスの居る聖域と呼ばれる地帯―に来てからの記憶は急にはっきりとして残っている。
 あの時から、靄のかかった様だった意識が鮮明になり、少しづつ色々な事がわかってきた。

 ルルススが一緒に生み出した俺―キラーとオロロージョと言う存在、聖域に存在するべき者。不慮の事故で別々に飛ばされて生まれ落ち、行方が分からなかったのが俺。
 こちらの存在を感じ取れると言うオロロージョが成長したので、外をあちこち探していたんだそうだ。
 対に創られた俺達はお互いが側にいなくとも傍に感じる事ができる。
 こちらに来てから自分にもその感覚が分かる様になってきた、その矢先の事だった。


 今日はちょっとした用事でオロロージョの部屋に行こうとした。
 部屋を訪ねる前には最近に練習も兼ねて頻繁に行っている精神の対話をして事を伝えいる、言わばテレパシーの様なモノでお互いの位置を確かめあい、連絡をしている訳だ。

 しかし、その日は彼の位置が掴めなかった。

 何かが彼の存在を隠すかの様にもやもやとして、辿ろうとしてもオロロージョの居場所が分からない。
 この時間は彼はいつも部屋にいる。それに何らかの事があったなら伝わると感覚が言っていたので、とりあえずオロロージョの部屋と向かった。




 この、キラーがオロロージョの気配を察知出来なかった理由は、少々前の出来事に関係する。


「リヒトさん?」
 なにやってるんですか?と、そう言ってオロロージョは首を傾げる。
 目の前に居るリヒトはここがオロロージョの部屋だというのに構わず何かの法陣を使用している。
「ちょっと、悪戯かな」
 こんなところでしないで下さいよ…、少しだけ眉が中心に寄った困った様な、それでも微笑んだ顔でこちらを伺ってきた。

「最近なかなか時間が取れなかったし、邪魔されないための悪戯なんだよ」

 久し振りに二人きりでゆっくりと話がしたい、と言うリヒトの提案にオロロージョが反対する訳もなく、じゃあお茶を入れますね、と顔を綻ばせた。それを見てリヒトは、ひっそりと子供の様に唇の端を吊り上げるが、部屋のテーブルに向かったオロロージョは気付く事はなかった。

 いつものオロロージョならば、この後の時間帯に定期的に訪れているキラーの事を忘れたりしなかっただろうが、彼も久方振りに会えた思い人の言葉が嬉しくてその時ばかりは頭他の事はから抜けてしまっていた。



 そんな経緯があり、彼、キラーは今オロロージョの私室の前に来ている。


「んぁッ…りひ、さん」
 気配を完璧に遮断する様な結界が張られているにも拘わらず、その中からは微かな物音や中の人間の息遣いすら聞こえて来る。とても扉越しとは思えない程、途切れ途切れの吐息すらこちらに伝わる。
 質の悪い嫌がらせの様だ。実際、この結界を張った人間は自分に対して何かしら思う処があってやったとしか思えない。
 そして、まずオロロージョがこういった事をするタイプでない事は分かっている。声を漏らさぬ為ならまだしも、扉の前に立った人間にだけ聞こえる様にするなどまずしない。

 嫌がらせの様では無い、これは嫌がらせだ。

 薄い木の板を一枚隔てた場所からは、依然うわづった吐息とぐちゅくちゅと微かに水音が聞こえ続ける。
「オロ、溜まってたのか?」
 揶揄する様な楽しそうなリヒトの声がする。それに重なる様にオロロージョの涙混じりの悲鳴の様に声が短く上がった。
「ひぁッ、あッ、だっ…て、リヒトさんが、いなかったから」
 いつも穏やかで、太陽の様だと思っていたオロロージョの声は、艶掛かっていて幾分か高く聞こえた。
「辛いなら、先に一回抜いておくか?」
 独特の粘着質のある水音が、先程より早いペースで擦られているのか酷く響いて聞こえる。
「あ、あッ、まっ、て」
 切羽詰まった声でオロロージョが、制止の言葉を漏らす。
 制止の言葉に妙に安心したような脱力感が体を包みになり緊張で静止していた体が動いた、この場から立ち去るなり何かしら行動を取らなければ、と体に言い聞かせる。
 扉の中から、呼吸を落ち着かせながらボソボソとした一言が漏れ聞こえた。

「リヒトさんと、一緒に、達きたいです…」



「…煽るなよ、途中で止められないぞ」

 平生飄々としているリヒトの声が、真摯な音を帯びているのが扉越しに分かる。分かりたくもなかった事だ。

「止めないで欲しいから、いいんです」

「オロ…」
「だってまたすぐに忙しくなるでしょう?」
 だったら…、と付け加えるように小さな声もした、後半は聞き取れなかったけども、オロロージョの穏やかな笑い声が聞こえたのはわかった。いつものそれよりも尚優しそうな、嬉しそうな、柔らかい声音。

「元より止める気はないけどな」
 気のせいではないだろう、リヒトの嬉しそうな声がした。続くように、知ってます、とだけオロロージョの声も聞こえたとおもうと、そのまま行為は再会されたようだった。

 

 震える足が、走り出した。歩く事の方が難しく思えるくらい勝手に体が動く。
 ただその場に居たくなかった。


 自分達が生活している塔から結構離れた所迄来た気がして、漸く足が止まった。実際はどの辺りかなど分からないくらい動揺していて、まだ思考もおぼつかない。
 何故、動揺しているかは分からなかった。

 ただ頭の中が何かで強い衝撃を受けた様にガンガンして、否、物理的な痛みよりも酷く痛んだ。




















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自覚の無いままキラーさん失恋
あれ?確かキラオロ書こうとしてたんじゃなかったけ…
どう見てもリヒオロですね。尻切れトンボ。



ていうか毎回設定が違う所をどうにかしましょうよ。